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原サイしおさん鰻を食べた

 俺用語集 Ver.2.6.6.6

日本小学生SF童話大賞受賞作品

原サイしおさん鰻を食べた
            by 上岡龍太郎&トゥナイト利根川

ぼくは東海村東小学校にかよう一年生で王 宅郎。
ぼくの小学校からはピッカピカの原子力発電所が見える。ここで作られた電気がぼく
んちの明りをつけて、ゆうきちゃんちのスーパーフミコンもうごかしているんだと思うと、
ぼくはどきどきする。『げんぱつ』ってかっこいいなあ。
『げんぱつ』っていうのは、『げんしりょく・はつでんしょ』の『げん』と『はつ』を
とって『げんぱつ』なんだと、そこで働いてるとなりの早坂のおじさんがおしえてくれた。
毎日学校へ行くとちゅうに『げんぱつ』のまえをとおるから、『東海村原子力発電所』
っていう字もおぼえちゃったけど、なんで『げん』と『はつ』で『げんぱつ』なのかぼ
くにはえいえんのナゾだ。
きっとゆうきちゃんがファミコンのことをフミコンって書くのとおんなじりゆうじゃな
いかなって思う。

ある日、ぼくがお父さんと本やさんに行くと、すごく大きな人がシクシクなきながら立
っているのを見つけた。
「おじさん、どうしたの?おなかが痛いの?」
ってぼくがきくと、大きな人はへんなこえでこたえた。
「チガウンダヨ、ボウヤ。コノ本ヤサンニハネ、ワタシノホシイ本ガチットモナインダヨ。
ダカラ、チョットカナシクナッタノサ」
大きな人のかおをよく見てぼくはビックリした。
なんだかおもちゃの『そっくりさんマスク』みたいなゴムのかおだった。
「おじさん、なんでマスクしてるの?」
ぼくはちょっと悪いかな、と思ったけどきいてみた。
ファーッファッファー
おじさんはこわれたでんしオルガンみたいなこえでわらった。
「オジサンハネ、ソコノゲンシリョクハツデンショノナカデハタライテイル、ロボットナ
ンダヨ」

ぎょっえー。ぼくちゃん・ぎょえーのまことちゃん!
ぎょぎょぎょぎょぎょっえー!

って、いうぐらいぼくはおどろいた。ロボットの人が本がなくてないているなんて、す
っごくふしぎだ。

ここで、原サイしおさんについて話しておく。
ぼくがあのロボットマンのおじさんをもういちど見たのは『とうかいむら』という町内
のかいほうでだった。原子炉内作業用サイボーグ、R・しおうら号のかつやく このみだ
しを見て、あのロボットマンのおじさんは、『しおうら』さんなんだってわかった。
おとうさんに読んでもらって、『R』はロボットマンのいみがあるってわかった。
ぼくはロボットマンっていう言葉のひびきがとっても気にいった。かっこいい!
ぼくはロボットマンのおじさんを原サイしおさんってよぶことにした。原子力発電所が
げんぱつだから、原子××サイボーグのしおさんは『原サイ』でいいはずだ。
しおさんの体には『なまり』が入っているから、ガンマーセンをあびてもへいきなんだ
ってさ。
ぼくがガンマーセンをあびたら、『ひばく』になってしまって、うんこびちびちやねん。
(なまり?)
だから原サイしおさんはすっごく強いんだ。
かっこいい!

ある日、ゆうきちゃんと本やさんに『ウナギーをさがせ』の一ばん新しい、『ウナギ
のタイムトラベル』を買いにいったとき、原サイしおさんにあった。
しおさんはまた、シクシクないていた。
ロボットマンのしおさん、またほしい本がないの?」
すると原サイしおさんはこういった。
「タクロウクン、ワタシノホシイ本ハネ、モウドコノホンヤサンニイッテモナインダヨ。
…サンリオSFブンコッテイッテネ、セナカニカセイジンノ絵ガカイテアルンダ。
ナイッテワカッテイテモサガシテシマウ。ソシテカナシイキモチニナル。
タクロウクンニハワカラナイコトダネ」
たしかにぼくにはわからない。でも、ドラクエがほしくてほしくてしかたないのに、
どこのおみせにもなかったときのことをぼくはかんがえてみた。
そして、なんとなくかなしいきぶんになったので、なんとなく原サイしおさんの気もち
がわっかった。
ほんとうにほしいものがてにはいらないっていうことはじつはすごくかなしいことなの
かもしれない。
「げんきだしなよ、しおさん」
ぼくはなんとかしおさんをげんきづけようと思った。
「そうだ、鰻だ!鰻でも食べてげんきつけなよ」
ぼくはロボットマンのしおさんをいきつけの鰻やさんにつれていった。
ゆうきちゃんのお父さんはいじょうに鰻がだいすきだった。なにかうれしいことがある
と鰻を食べて、かなしいことがあると鰻を食べた。
ぼくもおじさんになんども鰻つきあわされた。
それで、鰻っていうむずかしい字もおしえられてしまった。お母さんも、
「高橋さんってヘンなことばっかり教えてこまるわ」
っていっている。
でもゆうきちゃんのお父さんでも、おみせのかんばんに『うふぎ』ってかいてあるのに、
『うなぎ』って読むのはなぜかしらないらしい。
「たくちゃん、それはじんるいえいえんのナゾだよ」
っていってごまかされてしまった。
みせのおばさんはすごくびっくりしていた。
「おばさん、鰻をこの人に食べさせてあげて」
ってぼくがちゅうもんすると、原サイしおさんは、
「タクロウクン、ワタシハキカイニナッテカラタベモノヲ食ベタコトガナイ。ワタシハイ
イカラキミラガオタベ」
「ダメだよ、しおさんが食べなきゃ」
ぼくがそういったので原サイしおさんはしかたなさそうに鰻を一口食べた。すると…
ファーッファッファー
またオルガンみたいなわらいごえでしおさんはわらった。
「オイシイヨ、タクロウクン、オイシイヨ!」
そういってパクパクうな重を食べはじめた。
ゆうきちゃんは
「お父さんみたい」
といって、けらけらわらっていた。

ある日、ぼくはかせいじんをはっけんした。
おとうさんとものおきをかたずけているとき、ひもでしばられた本のたばの中に、せな
かにかせいじんのいる本を見つけた。
たこみたいなのがかせいじんだっていうのは、火火金金のコマーシャルでしっていたん
だ。
せなかには、

『競売ナンバー66の叫び』トマス・M・ピソチョン
サンリオSF文庫

ってかいてあった。
「おとうさん、このかせいじんのついた本、もらっていい?」
ってきいてみた。
「ああ…いいけど。宅郎にはむずかしいかもしれないぞ」
いいもん、読むのはぼくじゃない。
この本を原サイしおさんにあげたらどんなによろこぶだろうかって思いながら本やさん
へ走った。
やっぱり本やさんに原サイしおさんはいた。
「しおさん、かせいじんのついたサンリオの本がうちにあったよ」
そういって本を見せたら、目をまんまるくしてピーピーへんな音を立ててしおさんはよ
ろこんだ。
「アア…アリガトウ、タクロウクン…ホントウニアリガトウ」
原サイしおさんは本物のなみだをながしてよろこんだ。
ここまでありがたがられると、なんだがぼくもうれしいようなへんなきもちになった。
「ソウダ、オレイニウナギヲタベサセテアゲヨウ」
「やったね!」
パチン、ってゆびをならすまねをぼくはした。じつをいうとぼくはまだ、パチンってゆ
びをならすことができない。
そのとき、本やさんにウーウーっていうサイレンがなりひびいた。
ぼくはまんびきにまちがえられてしまったのかと思い、とっさにいいわけをかんがえて
しまった。

『非常事態宣言が発令されました。住民のみなさんはすみやかに待避所に避難してくださ
い…くりかえします…』

ありゃ、今日はひなんくんれんの日だったかな?ってぼくがあたまをかしげていると、
原サイしおさんはきゅうにおっかないかおになった。
でもまたふつうのやさしいマスクにもどって、
「タクロウクン、クンレンデアツマッタトコロニイキナサイ。ワタシハシゴトニイカナク
チャイケナクナッタ」
「おしごと?」
「ソウダヨ。ワルイがんまーせんガアバレダシタカラネ、ヤッツケニイクンダ」
「かっこいい!」
ぼくはしおさんにとびついた。
「ワタシガがんまーせんヲヤッツケテイルアイダ、アンゼンナトコロヘヒナンシテイルン
ダ。イイネ」
「うん」
「一人デイケルカナ?」
「もちろんさ」
そういってぼくは走り出した。でもすぐ立ちどまって、
「しおさん、おしごと終わったら、鰻食べさせてね」
「ワカッタヨ」
「やくそくだからね」
ぼくはしおさんとゆびきりげんまんをした。
ぼくはひなんじょでお父さんとお母さんとゆうきちゃんのいっかとあった。
お父さんとお母さんはおっかないぐらいにぼくをしんぱいしていた。
ほうしゃのうににやられたら、ひばくになってしまう。そしたらエイズとおなじぐらい
しんでしまうから、しんぱいしたのだろう。
でもぼくはしんぱいじゃなかった。
だって、きっと原サイしおさんが悪いほうしゃのうやガンマーセンをやっつけてくれる
にちがいないもの。

そうして、一晩そこにいて、ぼくらは家にかえっていいことになった。みんなげんぱつ
のわるくちばかりいっているので、なんだかぼくはおこってしまった。

げんぱつがじこになると、ほうしゃのうがいっぱい出て、町のみんながひばくになって
しまうということをぼくはあとで知った。
こんかいはほうしゃのうが外にでるまえにげんぱつがなおったからよかった。
きっと原サイしおさんが悪いガンマーセンをたおしてくれたからだとぼくはしんじてい
る。
原サイしおさんが町のみんなをすくってくれたんだ。
それからぼくは毎日本やさんにいってみる。
けど、原サイしおさんに会うことはなかった。
かせいじんの本はまだ、ぼくの手のなかにある。

 作品解説 審査委員長 矢野 拓

龍太郎くん、ごめんね。おじさんは最初、龍太郎くんじゃなくてだれか大人の人がこれ
を書いてるんじゃないかって思ってしまったんだ。だって、原発だとか、鰻だとか難しい
言葉がいっぱいでてきたからね。小学生の君が書いたこの物語はそれぐらいおもしろかっ
た。すんごくオタクで、とびっきりかっこよくて、そしてちょっぴり悲しい。こんな話を
これからもずっと書いてくださいね。
 ライバルは海木ばななだ!

1991/8/8
 (『萩とゆうきtoZ Vol.3』 初出)→萩ゆう

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